死刑執行を生き延びた米死刑囚、意識回復し会話 弁護団が発表

画像提供, Tennessee Department of Corrections
アメリカ・テネシー州での死刑執行で、致死量の薬物を2回にわたり注射されながら生き延び、病院に搬送された死刑囚について、弁護団は6日、現在は「意識があり、会話できる」状態だと明らかにした。
弁護団は声明で、クリスタ・パイク死刑囚(50)は手錠をかけられたまま、集中治療を受け続けていると説明した。
パイク死刑囚は1996年、コリーン・スレマーさんを殺害した罪で死刑判決を受けた。裁判では、当時恋人だったタダリル・シップ受刑者と共に、素行に問題のある10代向けの職業訓練キャンプで知り合ったスレマーさんを殴打、拷問、殺害したと認定された。事件当時、スレマーさんは19歳、パイク死刑囚は18歳だった。
パイク死刑囚の死刑執行は、先月30日午後8時ごろ、ナッシュヴィルのリヴァーベンド最高警備刑務所で始まった。しかし、2度の薬物注射は失敗し、同死刑囚は病院に搬送された。医療スタッフが、投与された薬物を体内から排出する処置を行う間、数日間にわたり意識不明の状態が続いていた。
専門家と弁護団は、パイク死刑囚が回復の兆しを見せていることについて、前例がない事態だとしている。致死量の薬物を注射されて生き延びた事例は、パイク死刑囚だけとみられる。
弁護団は、パイク死刑囚の状況を「医学的に前例のないもの」と形容。予後は依然として不透明で、「少なくとも長期にわたる回復期間が必要になるとみている」とした。
犯罪学者で米フォーダム大学ロースクール教授のデボラ・デノ氏は、パイク死刑囚が意識を取り戻し、会話ができる状態にあることに「本当に驚いた」とBBCに語った。
デノ氏によると、死刑囚が死刑執行を生き延びた事例は過去に7件ある。ただ、いずれのケースも、執行担当者が死刑囚の静脈に薬物を注射できていなかったのだという。
「何かしらの毒素が実際に注射されて」生き延びたのは、パイク死刑囚だけだと、デノ氏は述べた。
そして、「(執行担当者は)死刑執行の手続きとして行うべきことをすべて実施したが、うまくいかなかった」と続けた。「このようなことはこれまで一度もなかった」。
当局は、パイク死刑囚に対する死刑を再び執行するかどうか明らかにしていない。また、今回の執行で何が問題だったのかについても説明していない。
テネシー州のビル・リー知事は、今回の死刑執行の失敗を受け、年内に予定されていたすべての死刑執行の一時停止を命じた。同州の刑務所当局の責任者は先週末、辞任する意向を表明した。
パイク死刑囚の弁護団は、7日にナッシュヴィルの裁判所に出廷する予定。裁判所の外で記者会見も行うという。
パイク死刑囚の弁護団に助言している麻酔科医のジョエル・ジヴォット医師は6日、致死量の薬物を注射されて回復する可能性は低いと述べた。
ジヴォット医師はBBCに対し、「致死量の薬物を注射された人の大半は死亡する」と述べた。「クリスタを除けば、実際ほぼ全員がそうなっている。彼女が生き延びたという事実は(中略)異例の事態だ」。
一方、パイク死刑囚の状態については、依然として多くの不確定要素が残っているという。ペントバルビタールがどの程度体内に吸収されたのか、投与後の血中濃度がどの程度だったのか、今後どのような回復経過をたどるのかなど、分からないことが多いと、同医師は述べた。
「彼女の容体について、大きなリスクはもうなくなったとは、決して言えない」
ジヴォット医師は先に、パイク死刑囚に投与されたペントバルビタール2回分が通常の循環で血液中に入っていたなら、死刑囚は「間違いなく死んでいただろう」と述べていた。
しかし実際には、ペントバルビタールが血流内ではなく皮下組織に入り広がった可能性が高いと考える方が説明がつくと、同医師は述べた。
ジヴォット医師は先週の時点で、蘇生処置の遅れにより、パイク死刑囚が脳損傷を負う可能性が「十分ある」と指摘。パイク死刑囚の状態を正確に把握し、神経学的検査を行うには約1週間かかるとの見方を示していた。死刑執行の失敗からすでに6日が経過している。
パイク死刑囚の弁護団は死刑執行以前から、同死刑囚の病歴や、血小板増多症(血小板の数が正常よりも多い状態)であること、静脈が細いことなどを理由に、「不必要な」苦痛を受けるリスクがあると警告していた。
弁護団は6日、今回の死刑執行によって、パイク死刑囚が両腕に「深刻な損傷」を負ったと明らかにした。
死刑執行に関する情報を追跡する、アメリカの死刑情報センターによると、2022年に米国内で行われた死刑執行の3割以上が失敗したか、重大な問題があったという。
同センターは、死刑執行の失敗は、特定の執行方法に関する手続きが順守されなかった場合に発生するとしている。
こうした事案は、静脈へ確実に投与することが困難な場合に起きることが多いが、その根本的な原因は人によって異なる。
同センターが記録した複数の事例では、致死量の薬物が適切に投与される前に問題が発生していた。執行担当者が、執行手順として定められた静脈へのアクセスを確保できないケースが多くみられた。
テネシー州で死刑執行が予定通りに進まなかったのは、今年これで2件目。
1994年に3人の誘拐および殺害の罪で死刑判決を受けたトニー・カラザース死刑囚の死刑執行は5月、薬物を注射するための静脈が見つからなかったために1年延期された。











