イスラエル軍、ガザ市の5歳少女殺害で乗っていた車への発砲認める 刑事捜査を開始

画像提供, Family/Reuters
ヨランド・ネル中東特派員、ルーシー・ウィリアムソン中東特派員(エルサレム)
イスラエル軍は19日、2024年1月にパレスチナ・ガザ地区で5歳のパレスチナ人少女ヒンド・ラジャブさんが親族6人と共に殺害されたことをめぐり、ヒンドさんを乗せた車に同軍が発砲したことを初めて認めた。
ヒンドさんは当初、攻撃を生き延び、かかってきた電話に出て助けを求めた。この通話は数時間続いた。その後、救急車がイスラエル軍と調整のうえヒンドさんの元へ向かったが、砲撃され救急隊員2人が死亡した。ヒンドさんは数日後、他の犠牲者らと共に遺体で収容された。
2023年10月にガザの武装組織ハマスが主導したイスラエル襲撃をきっかけにガザでの戦争が始まって以降、イスラエル国防軍が戦争犯罪の疑いに関する包括的な報告書を公表したのは、今回が初めて。
イスラエル国防軍(IDF)は、ヒンドさんとその家族および救急隊員の殺害、そして2025年3月に発生した救急隊員や国連職員を含むパレスチナ人15人の殺害について、刑事捜査を開始するとの声明を発表した。
どちらの殺害でも、発生当時からIDFは国際社会から非難を浴びている。
IDFはヒンドさんの殺害について、「パレスチナ赤新月社の救急車の移動における調整の不備が疑われるため、軍警察犯罪捜査課による刑事捜査を開始することを決定した」と述べた。
また、調査結果から「IDF報道官が事前に出した同地域住民に対する通告に反して走行していた車両に向けて、IDFの部隊が発砲した」ことが明らかになったと付け加えた。
IDFは当初、ヒンドさんが殺された当時、その地域に部隊はいなかったと発表していた。しかし、その主張はすぐに疑問視された。
IDFはその後、ヒンドさんが住んでいたテル・アル・ハワを含むガザ市内の地域で部隊が活動し、「テロの標的に対する襲撃作戦を実施していた」と説明した。
オペレーターは何時間も呼びかけたと
ヒンドさんの殺害は、彼女がパレスチナ赤新月社(PRCS)の救急隊員に必死に語りかける音声記録が公表された後、国際的に非難された。
電話の向こう側から聞こえてきたヒンドさんの弱々しい声は、彼女の死後も長い間、PRCSのオペレーターたちの脳裏にこびりついた。ヒンドさんは、戦車が車の真正面にいて、自分に向かってくるのを見たと語っていた。
「座席の下に隠れて。誰にも見られないように」と、オペレーターはヒンドさんに言った。
オペレーターのラナ・ファキフさんは、PRCSのチームがイスラエル軍に救急車の立ち入りを許可するよう訴える間、何時間もヒンドさんと電話で連絡を取り続けた。
ファキフさんによると、ヒンドさんは何度も何度も、誰か助けに来てほしいと懇願していたという。
「ある時、彼女は暗くなってきたと言った」と、ファキフさんは2024年2月にBBCに語った。「彼女は怖がっていた。私の家がどれくらい遠いのかと尋ねてきた。私は身動きが取れず、どうすることもできなかった」
通報から3時間後、ようやく救急車が現場に接近する許可が下り、ヒンドさんの救助に向かった。
現場に向かった救急隊員のユスフ・アル・ゼイノさんとアハメド・アル・マドフーンさんは日が暮れてから、自分たちが目的地に近づいており、イスラエル軍による立ち入り検査を受ける予定だとオペレーターに伝えた。
それがオペレーターがこの2人の声を、そしてヒンドさんの声を聞いた最後だった。
その後、救急隊員2人およびヒンドさんとの通信回線は、完全に途絶えた。
後にPRCSは、救急車がイスラエル軍によって爆撃され、ゼイノさんとマドフーンさんが殺されたと確認した。
PRCSは声明で、「(イスラエルの)占領軍は、子どもであるヒンドさんを救助するために救急車が現場に到着できるよう事前に調整していたにもかかわらず、赤新月社の隊員を意図的に標的にした」と述べた。
ヒンドさんの話は「ヒンド・ラジャブの声」というタイトルで映画化され、アカデミー賞にノミネートされた。
国連は調査委員会においてヒンドさんの事例を取り上げ、イスラエルを戦争犯罪で告発した。イスラエルは戦争犯罪を否定している。
ガザにおけるイスラエルの人権侵害疑惑を追及しているヒンド・ラジャブ財団は19日、IDFによる調査について「信頼を置いていない」と述べた。
ブリュッセルに拠点を置く同財団は、「報道されているこれらの調査は、たとえ実際に行われたとしても、正義に向けた真の一歩と誤解されるべきではない」と声明で述べた。
また、イスラエルの内部調査は「根本的に欠陥があり、信頼できる説明責任のメカニズムとはみなせない」と付け加えた。
IDFは声明で、同軍が「1000日以上にわたり、イスラエル国防軍は多数の戦線で激しい戦闘を行い、極めて複雑な作戦状況の中で幅広い軍事任務を遂行してきた」としている。
そして、「国際法およびイスラエル国内法に基づくイスラエル国防軍の義務の一環として、イスラエル国防軍は戦闘中に発生した特異な事案を調査する」としている。
人道支援の車列攻撃についても
IDFはまた、2025年3月23日未明にガザ南部ラファ近郊で、緊急出動中のPRCSの救急車両や国連の標識の付いた車両、消防車などが銃撃され、パレスチナ人15人が死亡した事案についても刑事捜査を行うと発表した。
15人の遺体は1週間後、大破した車両のそばの砂地に埋められているのが発見された。
イスラエル軍は当初、暗闇の中で車列がヘッドライトも緊急警光灯も点灯させず「不審に」接近してきたため、兵士らが発砲したと主張していた。
しかしその後、殺害された救急隊員の1人、レファト・ラドワンさんの携帯電話から見つかった動画に、車列が緊急灯を使用していた様子が映っていたことから、その説明は「誤り」だったと発表した。
19日の声明でIDFは、「調査結果を検討した結果、事件中に行われた発砲行為は犯罪行為の疑いを抱かせるものであると判断したため、事件の刑事捜査を開始することを決定した」と述べた。
一方、2024年4月にガザ中部デイル・アル・バラフで慈善団体「ワールド・セントラル・キッチン(WCK)」の職員ら7人が殺害された事案や、国境なき医師団(MSF)の職員4人が殺された2事案の計3件については、刑事捜査を行う根拠は見つからなかったと述べた。
WCKは、7人の同僚の殺害に関するイスラエル軍検察官の説明を「強く」非難し、独立した調査を要求した。
IDFは、国際刑事裁判所(ICC)をはじめとする国際機関による法的措置を回避するため、自ら調査を行っていることを示そうとしている。
これは、戦争犯罪を犯したという非難や、自国軍が処罰を免れているという非難に対抗することを目的としている。
しかし、イスラエルの人権団体は、イスラエル軍に対する刑事捜査が有罪判決につながることはまれだと述べている。
イスラエルの人権団体イェシュ・ディンのジヴ・スタール事務局長はBBCに対し、「兵士や指揮官が犯した犯罪に対する苦情の件数と比べれば、起訴されるケースはほとんどない」と語った。
「兵士や指揮官が有罪判決を受けるという極めてまれなケースにおいても、彼らは犯罪の重大性とはほとんど関係のない、不釣り合いに軽い刑罰を受ける」
ガザでの戦争は、2023年10月7日にハマスがイスラエル南部を奇襲したことで始まった。この攻撃では民間人を中心に約1200人が殺害され、251人が人質に取られた。
イスラエルは報復として、ガザでの軍事作戦を開始した。国連が信頼できる情報源とみなすハマス運営のガザ保健省の統計によると、イスラエルの作戦でガザではこれまでに7万3000人以上が殺害されている。また、昨年10月に停戦が発表されてからも約1200人が殺された。

















